Interview

特別対談:スタートアップを次の成長ステージへ。実務支援と連携で描くスケールアップの道(第3回/全4回)|ヒューリック大櫃氏 × INTLOOP林

目次

イントロダクション

本対談シリーズ第3回では、スタートアップが成長の壁を越え、事業を加速させるための具体的な支援策に焦点を当てます。ヒューリック株式会社 専務執行役員の大櫃直人氏と、INTLOOP株式会社 代表取締役・林博文が、資金提供だけではなく、実務支援や事業連携を通じた支援のあり方を語り合いました。

議論は、CVCと事業部門の連携不全が生む課題や、探索投資と戦略的投資を切り分ける重要性、さらにプロフェッショナル人材を活用したバリューアップの可能性へと展開。スタートアップが次の成長ステージに踏み出し、日本発のスケールアップ企業を生み出すための具体的なアクションを探っていきます。

 

―― ここからは、林さんにお伺いしたいと思います。スタートアップが成長の壁を突破し、事業を加速・拡大させるために、INTLOOPとして提供できるサポートについて改めてお聞かせいただけますか。

林:

我々は近年、スタートアップ支援を本格的に開始しました。そのきっかけの一つが、先ほど大櫃さんも触れられていた、大手企業から出資を受けているスタートアップが、なかなか実際の事業連携に結びつかず苦労している現状を目の当たりにしたことです。

そこで、INTLOOPとしては単に資金やネットワークを提供するのではなく、事業計画の構築や営業チャネルの活用、コンサルティング視点での課題解決といった実務面での支援を強化しています。

多くのスタートアップは、いわば「葉っぱ」にあたる小規模プロダクトやサービスを磨いている状態で、営業にしても単品でツールを売るようなビジネスにとどまりがちです。我々はコンサルティング会社としての知見を生かし、ソリューションの文脈でビジネスを広げる提案を行います。

また、メンターや経営アドバイスに加え、マーケティングや営業のスペシャリストなど、必要な人材リソースを提供できる体制も整えています。

スタートアップが「花開きづらい」と感じている段階を抜け出すために、経営・事業開発・人材の三方向から支えることが、我々の役割だと考えています。

 

―― 林さんも先ほど、出資を受けたCVCとのシナジーが効いていないケースについて触れられていましたが、CVCの役割は本来シナジー創出が最大の価値だと思います。それが十分に機能していない背景には、どのような要因があるとお考えですか?

林:

一つ大きいのは、大企業内でCVCを担当する部署と、実際の事業部門との間に断絶があることです。

CVCの担当者自身が、投資したスタートアップがどんな事業をしているのか十分に把握できていないことも多いんですよ。扱う投資先の数が多すぎて、連携どころか基本的な理解が追いついていないケースもある。

結果として、投資先のベンチャーも大企業側に「もっと協力してほしい」と言い出しづらい雰囲気になるし、そもそも大企業内の情報連携や動きが取れないまま終わってしまうんです。

私がかかわっている企業では、最初に「投資先すべてに営業をかけたのか?」と確認しました。出資を受けているのだから、まずは一緒に売上をつくる動きが最優先だと思うんです。大企業もリターンが出るし、スタートアップも売上が立つ。

本来であれば、同じカテゴリーで複数のスタートアップに投資しているなら、互いを結びつけて枝葉を幹に育てる動きがあってしかるべきですが、それができていないのが現状だと思います。

 

 

 

―― 確かに、そう考えるとCVCと事業部門の統合的な体制をつくればいいのではと思うところもありますが、大櫃さんの視点では、この連携を機能させるためにはどのような仕組みや考え方が必要だとお考えですか?

大櫃:

私が銀行時代の最後の方で大企業向けにコンサルティングをしていたときによく話していたのは、「新規事業の立ち上げ」と「世の中の先端動向の探索」を混同しないことが大切だという点です。

たとえば、AIや量子コンピュータ、宇宙産業など、自社の事業領域とは直接関係がないが将来の経営判断に資する情報は、探索的な投資・情報収集として切り分ける必要があります。

一方で、自社のリソースを生かしやすい領域や、シナジーを狙える分野では、事業部門と密に連携し、資金・人材・知恵を総動員してスタートアップを育成する戦略的投資が必要です。

現状、多くの企業がこの二つを明確に分けていないため、「話題だから投資した」「何となく出資した」という案件が積み重なり、結果として活用されない投資先が増えているのです。

まず大企業側でこの整理を行うことが、スタートアップとの関係を建設的なものにする第一歩だと思います。

探索目的であれば、スタートアップには「最先端の情報を教えてくれる存在」として期待すればよいし、シナジー目的であれば、「一緒に事業を創るパートナー」として徹底的にかかわる。この二つを峻別することで、双方の期待値や動き方も明確になるはずです。

 

―― 大企業側の啓蒙活動という観点で言うと、事業部門はスタートアップのことをほとんど知らないし、CVC側はスタートアップの動きや力学はある程度理解している。この両者の情報を連携させるだけでも、もう少し連携がスムーズに進むというイメージでよろしいですか?

大櫃:

その通りです。

ヒューリックでも同じですが、探索的な取り組みであれば少額出資で十分だと思います。ただし、新規事業を立ち上げる、あるいは事業として取り込むレベルの案件であれば、上場後でも追加出資を行い、資金を積み増し、人材を送り込むくらいの覚悟が必要だと思います。

この使い分けができるようになれば、スタートアップ支援やCVCの取り組みの世界観が大きく変わるはずです。スタートアップに限らず、レイトステージ企業に対しても、本気で事業を動かすお金やリソースを投入できるようになるでしょう。

林:

ヒューリックさんの場合は、大櫃さんが入られたことで、まさにその動きを加速させようとしているのだと感じます。

でも、多くの企業は役割が分断されていて、CVCが「ただのVC」みたいになっている印象を受けます。本来は事業部門とのオープンイノベーションを狙ったはずなのに、結果的に「お金だけ出して、あとはよろしく」という関係になってしまっている。

正直なところ、事業部門主導でやってしまった方が、結果的にうまくいくケースが多いのではと感じますね。

―― (INTLOOPの)営業部門的な立場からすると、そのアプローチは少し大胆すぎるかもしれませんが…。

林:

INTLOOPは組織規模が小さい分、情報連携や共同実行が前提になっていますし、「一緒に事業をつくれない会社には出資しない」というスタンスなので、少し特殊なケースかもしれません。

でも、大企業がCVCを立ち上げると、多くの場合はVC出身者を採用して運営を任せる形になる。するとどうしても、「投資利回り重視」になってしまい、事業部門との連携が希薄になるんです。

大櫃:

そうですね。結果的に、「とりあえずやっている」感だけが残ってしまうケースが多いのが現実だと思います。

林:

そうですよね。よくわからないけど、みたいな(笑)。

―― ヒューリックさんは規模が非常に大きい企業ですが、その分、役割が分断され過ぎているような印象も持っていました。現状、連携はうまく進んでいるのでしょうか?

大櫃:

はい。まだ途上ではありますが、整理を進めながら、徐々にうまく連携できる体制が整いつつあると感じています。本来、CVCや本体の出資活動、M&Aというのは、私はほとんど一体のものだと考えています。違うのはマイノリティ出資かメジャー出資かというだけの話で、本質的には同じだと思うんです。

重要なのは、先ほどもお話ししたように、新しい事業の柱を立ち上げるための投資と、未来の動向を探索するための投資、この二つをしっかり分けて考えることです。そうすることで、投資や協業の方向性が整理され、意思決定もずっとシンプルになるのではないかと感じています。

 

 

―― 続いて、林さんに伺いたいです。INTLOOPには5万人規模のプロフェッショナル人材のアセットがいる仲で、出資先の企業の「バリューアップ(価値向上)」という観点では、どのようなサポートができるとお考えですか?

林:

我々としては、5万人のプロフェッショナル人材の中から、マーケティングや経営企画、営業戦略や事業開発などの分野でスペシャリストをアサインし、出資先企業の成長スピードを加速させることができると考えています。スタートアップや成長途上の企業が不足しているリソースや専門知識を一時的にでも補強することで、事業の立ち上げや拡大を一気に進めることができる。そこに、我々として積極的に貢献していきたいと思っています。

 

* * *

本対談では、スタートアップの成長を阻む現実的な壁に対し、資金や人材の供給にとどまらず、実務や事業連携を伴走型で支える重要性が語られました。

INTLOOPによる三方向からの支援や、CVCと事業部門をつなぐ新たな仕組みづくりが、次の成長フェーズを切り開く鍵として浮かび上がっています。日本のスタートアップがより大きく羽ばたく未来への道筋が、具体的に見えてきた回となりました。

第4回(最終回)「日本発の挑戦を支える仕組み。人材・資金・コミュニティで育む持続的スタートアップ」では、ディープテックを含む事業立ち上げの課題や、研究者と経営者の連携、VCやコミュニティの役割を掘り下げます。あわせてご覧ください。